応用情報技術者試験 合格教科書|2026年度(令和8年度)対応
第 21 章|科目 A 例年 4 問前後(直近 10 年 19 回で 71 問、1 回平均 3.7 問) 科目 B: 経営戦略/情報戦略

企業活動 ― 経営・組織論、業務分析と OR、会計・財務

組織形態・CSR・BCP、QC 七つ道具・線形計画・在庫管理、損益分岐点・財務諸表・投資評価を計算問題の型で固める

この章で学ぶこと

科目 A では直近 10 年(19 回)で 71 問、1 回平均 3.7 問が出ています。ストラテジ系の 7 中分類では最多で、問 73〜77 付近に固まって出ます。とりわけ問 77 は会計・財務の計算枠として 19 回中 18 回に出現し、そのうち 12 回が損益分岐点でした。計算 3 問 + 知識 1 問の 4 問を狙い、3 問確保を目標にします。科目 B で「経営戦略/情報戦略」の問題を選ぶ場合も、損益分岐点と投資判断の考え方が土台になります。

企業活動と経営組織 ― 経営資源・CSR・企業形態

企業は利益を追求する集団であると同時に、雇用を生み、税を納め、社会の要請に応える有機的な組織体です。シラバスはこの多面性を、経済的機能・営利活動・所有と経営の分離・市場での独立性という 4 つの性質で説明しています。事業を継続する前提で存在するという考え方をゴーイングコンサーン(継続的事業体)といい、会計基準や事業継続計画の出発点になります。

企業が管理する経営資源はヒト・モノ・カネ・情報の 4 つです。とくに人材を費用ではなく価値を生む資本とみて開示・投資の対象にする考え方が人的資本経営、企業の存在意義を言語化して意思決定の基準に据える経営がパーパス経営です。行動の前提になる価値観の共有状態が企業文化(風土)、社内外に示す理念が企業理念で、これを視覚表現や行動指針に落とし込んだものがコーポレートアイデンティティ、その結果として市場が抱く評価がコーポレートブランドです。

CSR と環境対応

CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)は、利益追求だけでなく法令遵守・環境保全・人権尊重・地域貢献まで含めて責任を負うという考え方です。社会課題の解決そのものを事業の競争力に変える発想を CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)といい、CSR が「責任として果たすもの」、CSV が「事業として稼ぐもの」という違いで区別します。

語意味試験での識別点
SDGs国連が定めた持続可能な開発目標17 の目標。企業の取組みの「目的側」
ESG環境・社会・ガバナンスの 3 側面投資家が企業を評価する「観点」
SRI(社会的責任投資)社会的責任を果たす企業を選んで投資する投資家側の行動を指す
グリーン ITIT 機器・データセンタの省電力化などで環境負荷を下げるIT 自体の消費電力に着目
グリーン購入環境負荷の小さい製品・サービスを優先して調達する調達・購買の基準(R3 春に出題)
カーボンフットプリント製品のライフサイクル全体の温室効果ガス排出量を CO2 換算で表示「見える化」する指標
カーボンニュートラル排出量から吸収量を差し引いて実質ゼロにする排出ゼロではなく差し引きゼロ
環境経営環境配慮を経営方針に組み込む取組み全体の総称

企業形態とコーポレートガバナンス

会社法上の会社は、出資者が出資額を超えて責任を負わない有限責任性をもつ株式会社と、社員(出資者)が経営にも関与する持分会社(合同会社・合資会社・合名会社)に大別されます。法律の定める要件を満たせば設立を認められる仕組みを準則主義といい、株式を証券取引所に上場して広く売買できるようにすることを IPO(Initial Public Offering:株式公開)といいます。株式会社では株主総会が取締役を選び、取締役会が業務執行を決定し、監査役や社外取締役が監督します。この監督の仕組み全体がコーポレートガバナンスで、上場企業が従うべき原則を示した指針がコーポレートガバナンス・コードです。

ガバナンスと内部統制は混同しやすいので、向きで覚えます。ガバナンスは株主が経営者を規律する外向きの仕組み、内部統制は経営者が業務を統制する内向きの仕組みです。法令・社内規程・企業倫理を守ること自体はコンプライアンスで、内部統制の目的の 1 つに位置づけられます。

語意味誰に向けたものか
IR(Investor Relations)投資判断に必要な情報を投資家へ継続的に提供する活動投資家
ディスクロージャー法令や取引所規則に基づく企業情報の開示投資家・市場
アカウンタビリティ資源を託された者が説明する責任株主・社会
統合報告書財務情報と非財務情報(ESG・人的資本)を 1 冊にまとめた報告書投資家・社会
アニュアルレポート1 年の業績と事業活動をまとめた年次報告書投資家
CSR 報告書社会的責任に関する取組みと実績の報告書社会全般
レピュテーションリスク評判の悪化が業績・株価を損なうリスク―(リスクの種類)

経営組織の形態

組織形態は「何を基準に部門を切るか」で分類します。仕事の種類で切るのが職能別組織(機能別組織)、製品や地域という事業の単位で切るのが事業部制組織、両方を同時に使うのがマトリックス組織です。図 21-1 で命令系統の違いを比べます。

職能別組織 社長 開発 製造 営業 命令系統が 1 本 事業部制組織 本社 A 事業部 B 事業部 C 事業部 事業部が損益責任 マトリックス組織 職能長 PJ 責任者 メンバー 1 人が 2 系統に属す
図 21-1 組織形態の違いは命令系統の本数に現れます。マトリックス組織はメンバーに矢印が 2 本入るため、指示が競合したときの調整コストが弱点になります。
形態部門を切る基準特徴と弱点
階層型組織(ピラミッド型)指揮命令の階層統制しやすいが意思決定が遅い
フラット型組織階層を減らす意思決定は速いが管理者 1 人の負荷が増える
職能別組織・機能別組織開発・製造・営業などの職能専門性が高まるが部門間の壁ができる
ラインアンドスタッフ組織直接部門(ライン)と支援部門(スタッフ)スタッフは助言・支援に徹し、命令はラインが出す
事業部制組織製品・地域・顧客などの事業単位事業部長に権限と損益責任を委ねる。機能の重複が生じる(R5 春に出題)
カンパニー制組織事業単位を独立会社に近い形で扱う事業部制より権限と資本の独立性が強い
マトリックス組織職能とプロジェクトの 2 軸資源を共有できるが命令系統が 2 本になる
プロジェクト組織特定目的のための期間限定編成目的達成で解散する
DAO(分散型自律組織)階層を置かず、規約をプログラム化して参加者が自律的に運営ブロックチェーン上の投票で意思決定する

経営者の職能は役職名で問われます。CEO(最高経営責任者)が経営全体、COO(最高執行責任者)が業務執行、CFO(最高財務責任者)が財務、CIO(最高情報責任者)が情報システム戦略、CDO(最高デジタル責任者)がデジタル変革、CISO(最高情報セキュリティ責任者)が情報セキュリティ、CPO(最高プライバシー責任者)が個人情報保護を担います。特定領域の専門人材と知見を全社共有のために 1 か所へ集約した組織を CoE(Center of Excellence)といいます。

経営環境の変化と IT 利活用の動向

複数の会社の株式を保有して支配することを目的とする会社が持株会社(ホールディングス)で、傘下の企業群を一体として運営することをグループ経営といいます。国境を越えて事業を行う国際化、業種の境界が溶ける業際化、企業が地域社会の一員として振る舞う企業市民といった変化に加えて、勤務形態も広がりました。本社から離れた小規模拠点で働くサテライトオフィス、自宅で働く在宅勤務、自宅や小さな事務所を拠点にする SOHO(Small Office Home Office)、単発の仕事を都度請け負う働き方が広がったギグエコノミーが用語例に並びます。企業が外部環境の変化を自らの活動に取り込むことを企業環境の内部化といいます。

出題実績 この節から出た問題は 10 年で数問です。CSR(H29 春)、グリーン購入(R3 春)、Society 5.0(H30 春)、ソーシャルメディアガイドライン(H28 春)、事業部制組織(R5 春)、レベニューシェア型契約(R210 月)が各 1 問。用語の定義を選ぶ形なので、表の 1 行を読める状態にしておけば足ります。

IT の進展が社会を変える動きも用語で押さえます。第 4 次産業革命は IoT・ビッグデータ・AI による産業構造の変化を指し、日本が掲げる将来像が Society 5.0(サイバー空間と現実空間を高度に融合させた超スマート社会)です。データを起点に判断する社会をデータ駆動型社会、デジタル技術で事業やビジネスモデルを変革することを DX(デジタルトランスフォーメーション)、企業そのものを変革することを CX(コーポレートトランスフォーメーション)、脱炭素へ経済社会を移行させることを GX(グリーントランスフォーメーション)といい、その企業連携の枠組みが GX リーグ基本構想です。排出量を製品単位で追跡するカーボントレーシング、規制を先行的に緩めて先進技術を実装するスーパーシティ構想(国家戦略特別区域法)、組織を越えてデータを安全に流通させる基盤であるデータスペース、信頼性のある自由なデータ流通を意味する DFFT(Data Free Flow with Trust)も同じ枠です。企業の DX 推進のあり方を示した指針がデジタルガバナンス・コード 3.0(2024 年に 2.0 から改訂。DX 経営に求められる 3 つの視点・5 つの柱)、技術変化に追従して規制と運用を継続的に見直す考え方がアジャイル・ガバナンスです。学習に投じた計算量とデータ量を増やすほど言語モデルの性能が向上する経験則を AI 言語モデルのスケーリング則といいます。

経営管理・人的資源管理と事業継続計画

経営管理は、経営資源を最適に配分して有効活用する仕組みを作り、回すことです。経営目標から経営計画・事業計画へ落とし、業績評価で結果を測って次の計画に返します。この回し方の代表が PDCA(Plan-Do-Check-Act)で、計画してから動くことを前提にします。これに対し OODA ループ(Observe-Orient-Decide-Act:観察・状況判断・意思決定・行動)は、変化が速く計画を立てる余裕がない場面で、観察から行動までを高速に回す考え方です。品質を全部門・全階層で作り込む活動を TQM(Total Quality Management:総合的品質管理)といい、財務管理・資産管理・人事管理・情報管理はそれぞれの経営資源に対応する管理領域です。

経営管理論の系譜も用語で押さえます。作業を科学的に分析して標準作業量を定めたのが科学的管理法、管理の働きを計画・組織・統制などの過程として捉えたのが経営過程論、組織を「共通目的・貢献意欲・コミュニケーション」の 3 要素からなる協働システムと定義したのがバーナード、組織の本質を意思決定の連鎖と捉え、人間の合理性には限界がある(制約された合理性)と示したのがサイモンです。対象をひとまとまりの系として捉え、要素間の相互作用から全体の振る舞いを説明する枠組みが一般システム理論です。

ヒューマンリソースマネジメント(HRM)

人的資源管理は、採用・配置・育成・評価・処遇を通じて人材の力を引き出す活動です。育成は、実際の業務を通じて上司や先輩が指導する OJT(On the Job Training)と、業務を離れて研修などで学ぶ Off-JT に分かれます。目標を上司と部下が合意して設定し、達成度で評価しながら自己統制を促す制度が MBO(Management by Objectives and self-control:目標管理制度)で、期末に上司だけでなく同僚・部下・関係者からも評価を集める方式が 360 度評価です。

語意味混同しやすい語との違い
コンピテンシー高い成果を上げる人に共通してみられる行動特性知識・技能の保有量ではなく「行動」で定義する(R7 春に出題)
コーチング問いかけで本人に答えを出させ、目標達成を支援するメンタリングは経験者が助言・相談相手になる関係
e-ラーニングIT を使って時間・場所を選ばず学習するアダプティブラーニングは学習者の理解度に応じて出題・教材を変える
リスキリング新しい職務に必要な技能を学び直すジョブローテーションは職務を計画的に異動させて経験を広げる
タレントマネジメント人材の能力・経験を可視化して配置と育成に活かす選抜型人事は将来の幹部候補を早期に選んで育てる
エンパワーメント現場に権限を委ねて自律的な判断を促す権限委譲そのもの。動機づけの手段でもある
エンプロイヤビリティ労働市場で雇用され続けられる能力リテンションは自社の人材の定着・引き留め
ワークシェアリング1 人分の仕事を複数人で分け合い雇用を維持するワークライフバランスは仕事と生活の調和(H28 春・H29 春に出題)
ワークエンゲージメント仕事に活力・熱意・没入をもって取り組む状態ウェルビーイングは心身と社会的な良好さ全般
EAP(従業員支援プログラム)心身の健康問題を専門家が支援する制度健康支援の外部サービス。評価制度ではない
テレワーク・裁量労働制場所や時間配分を本人に委ねる働き方裁量労働制は労働時間ではなく成果で処遇する前提
DE&I多様性・公平性・包摂を組織運営の前提にする属性の多様さ(Diversity)だけでは足りない点が要点
HR テック採用・評価・配置に IT やデータ分析を使うHPI は高い潜在能力をもつ人材そのものを指す
CDP(キャリアデベロップメントプログラム)長期の育成計画に沿って異動・研修を組むキャリア開発の制度化。アルムナイ採用は退職者の再雇用

集団を効果的に機能させる取組みがチームビルディング、事例をもとに議論して判断力を養う学習法がケーススタディ、成果に応じて年単位で報酬を決める仕組みが年俸制です。

リスクマネジメントと BCP / BCM

事業を止めないための計画が BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)、それを策定・運用・改善する管理活動全体が BCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)です。国際規格 ISO 22301 を日本語化した JIS Q 22301 が事業継続マネジメントシステムの要求事項を定めています。BCP の出発点は事業影響度分析(BIA:Business Impact Analysis)で、業務が停止したときの損害を時間経過とともに見積もり、優先して復旧させる重要業務を選び出します。

シラバスはリスク分析の手順を、①リスクの想定 ②想定したリスクの影響の分析 ③重要な業務の選定 ④重要業務を継続させるための計画の立案 ⑤実施可能な体制の整備 ⑥継続的に改善するための指針となる計画の策定、の 6 段階で示しています。障害や災害を受けても業務を維持し、素早く回復する組織の能力をレジリエンスといい、R5 秋に出題されました。

通常の業務レベル 被災 直前のバックアップ RPO RTO 目標復旧レベル 復旧完了 業務レベル 時間
図 21-2 RTO は横軸(時間)の目標、RPO は被災時点より前に戻る幅(データ損失の許容量)です。両者を短くするほど費用が増えるため、重要業務ごとに水準を決めます。

用語の型: RTO と RPO の読み分け

  1. 問題文が「時間」を聞いていれば RTO、「どこまでのデータ」を聞いていれば RPO
  2. RPO を短くする手段はバックアップ間隔の短縮やレプリケーション
  3. RTO を短くする手段は代替設備・待機系の確保と復旧手順の訓練

行動科学 ― リーダーシップ 3 理論とモチベーション理論

行動科学は、この中分類の経営・組織論のなかで最も出題が多い小分類です。直近 10 年で 7 問あり、そのうち 6 問がリーダーシップ理論です。3 つの理論が回ごとに入れ替わって問われるので、それぞれ何を軸に分類するのかを取り違えないことが得点に直結します。

PM 理論 2 つの機能の大小で 4 類型 Pm 型 P 大 M 小 PM 型 P 大 M 大 pm 型 P 小 M 小 pM 型 P 小 M 大 P 大 P 小 M 小 M 大 SL 理論 部下の成熟度で 4 段階 S1 教示的 S2 説得的 S3 参加的 S4 委任的 部下の成熟度が高くなる コンティンジェンシー理論(フィードラーの条件適合理論) 有効なスタイルは、リーダーの統制力という状況要因で決まる
図 21-3 左は「リーダーの機能」で分ける PM 理論、右は「部下の状態」で分ける SL 理論。下段の条件適合理論は「状況」で決まると説明します。分類の軸が 3 つとも違う点が誤答肢の作りどころです。
理論分類の軸結論
PM 理論目標達成機能 P と集団維持機能 M の 2 次元P も M も大きい PM 型が最も有効。P 大 M 小の Pm 型は成果を急いで抵抗を受けやすい
SL 理論(ハーシィ・ブランチャード)部下の成熟度(自律性)成熟度が低いほど指示的に、高いほど委任的にスタイルを変える
コンティンジェンシー理論(フィードラー)リーダーのパーソナリティと統制力という状況要因唯一最善のスタイルはなく、状況との適合で有効性が決まる
シェアードリーダーシップリーダーシップの担い手特定の 1 人ではなくメンバーが相互に発揮する
サーバントリーダーシップリーダーの姿勢まず奉仕し、支援によってメンバーの成長と成果を引き出す
出題実績 SL 理論は R3 春・R3 秋・R4 秋の 3 回、PM 理論は H28 春・R4 春の 2 回、フィードラーの条件適合理論は R5 秋に 1 回出ています。SL 理論は「ハーシィ及びブランチャードが提唱し、部下の成熟度で 4 分類する」という同じ文で繰り返されており、正解文をそのまま覚えて構いません。
覚え方 軸を 1 語で結び付けます。PM は「機能」・SL は「成熟度」・フィードラーは「状況」。選択肢が「2 つの能力の大小」と書いていれば PM、「部下の状態に応じて」と書いていれば SL、「リーダーの統制力」と書いていればフィードラーです。

モチベーション理論

動機づけの理論は、リーダーシップ理論と組み合わせて誤答肢に使われます。それぞれ「何が人を動かすと考えるか」で区別します。

理論人が動く理由実務への含意
マズローの欲求段階説生理的・安全・社会的・承認・自己実現の 5 段階を下から順に満たしていく下位の欲求が満たされないと上位の動機づけは効きにくい
動機づけ・衛生理論(ハーズバーグ)満足を生む動機づけ要因(達成・承認・仕事そのもの)と、不満を防ぐ衛生要因(給与・作業条件・人間関係)は別物衛生要因の改善は不満を消すだけで満足は生まない
XY 理論(マクレガー)X 理論は人は本来怠惰で統制が必要と仮定し、Y 理論は人は自ら責任を負い自己実現を求めると仮定するY 理論に立つと権限委譲と目標管理が有効になる
期待理論努力が成果に結びつく期待と、その成果が自分に価値をもたらす度合いの積期待と報酬の魅力のどちらかが 0 なら動機づけは 0
内発的動機づけ報酬ではなく、興味・自律性・熟達そのものが動機になる外的報酬を強めると内発的動機を損なう場合がある

集団が個人の行動に及ぼす影響をグループダイナミクス(集団力学)といい、意見の対立を成果につなげるように扱う活動がコンフリクト管理、利害の異なる相手と合意を形成する交渉がネゴシエーションです。会議で中立の立場から議論を進め、参加者の合意形成を支援する役割がファシリテータで、R4 春に出題されました。思考法では、前提を積み上げて論理的に結論へ至るロジカルシンキングと垂直思考に対し、既存の枠を離れて発想を広げるのが水平思考、結論の仮説を先に立てて検証する進め方が仮説思考です。伝える技術としては、読み手が誤解しない文書を書くテクニカルライティングと、口頭で伝えるプレゼンテーションが用語例に挙がります。

品質管理手法と業務分析 ― QC 七つ道具・新 QC 七つ道具

品質管理手法は直近 10 年で 7 問出ており、業務分析・データ利活用のなかで最も厚い小分類です。しかも問われ方はほぼ一定で、「こういうことをしたい」という用途を示して図の名前を選ばせる形です。したがって覚えるべきは図の描き方ではなく、用途と図名の対応です。数値データを扱う 7 つが QC 七つ道具、言語データ(意見・アイディア)を扱う 7 つが新 QC 七つ道具、という大きな区別から入ります。

パレート図 上位要因を累積で示す 特性要因図 品質 人 機械 材料 方法 原因を要因別に整理 管理図 UCL CL LCL 異常 時系列で異常を検出
図 21-4 同じ「不良の分析」でも、どの要因が多いかを知りたければパレート図、なぜ起きるかを洗い出したければ特性要因図、工程が安定しているかを見たければ管理図です。UCL・LCL は管理限界線を表します。
QC 七つ道具用途(この一言で選ぶ)形
パレート図件数の多い要因から順に並べ、上位が全体の何割を占めるかを見る棒グラフ + 累積比率の折れ線
特性要因図結果(特性)に対する原因を、大骨・小骨に分けて洗い出す魚の骨
管理図時系列の測定値が管理限界内に収まっているかを監視し、工程の異常を検出する折れ線 + 上下の管理限界線
散布図2 つの項目の間に相関があるかを見る点の散らばり
ヒストグラム測定値のばらつき(分布の形)を見る区間ごとの度数の柱
チェックシートデータを漏れなく簡単に記録・集計する記入表
層別データを機械別・作業者別などの区分に分けて比較する単独の図ではなく分け方の考え方
ここがひっかけ パレート図とヒストグラムはどちらも棒で描くため入れ替えて出されます。パレート図は「要因を件数の多い順に並べる」(横軸は項目)、ヒストグラムは「値を区間に区切って度数を数える」(横軸は数値の階級)です。パレート図は直近 10 年で H31 春・R5 秋の 2 回、いずれも「故障件数の上位を占める主な要因を表す図」という同じ文で出ています。
新 QC 七つ道具用途取り違えやすい相手
親和図法ばらばらの事実やアイディアを、似たもの同士でグループ化して構造をつかむ連関図法(因果を描く)と混同しやすい
連関図法絡み合った原因と結果の関係を矢印でつないで整理する特性要因図(原因を階層で分ける)
系統図法目的から手段へ、その手段をさらに手段へと樹形に展開する親和図法(グループ化)
マトリックス図法2 つの要素を行と列に置き、交点で対応関係の有無・強さを見るマトリックスデータ解析法
マトリックスデータ解析法数値化した多変量データを少数の指標に要約して位置関係を見る7 つのうち唯一、数値データを扱う
PDPC 法計画が想定どおり進まない場合の分岐と対応策を、あらかじめ図に描くアローダイアグラム(日程管理)
アローダイアグラム法作業の順序と所要日数を矢線で表し、日程を計画するPERT・クリティカルパスの図と同じ

親和図法のもとになった発想法が KJ 法です。カードに書き出した事実を似たもの同士に集め、グループに見出しを付けて構造化します。R4 秋と R7 春に「事実やアイディアを相互の親和性によってグループ化する」という同じ文で出題されており、連関図法・系統図法との取り違えを狙った誤答肢が付きます。

管理図と品質管理の周辺用語

管理図は、中心線(CL)と上下の管理限界線(UCL・LCL)を引き、点が限界内でランダムに散らばっていれば管理状態にあると判断します。平均値と範囲を組にして描くのが x-R 管理図、不良率を追うのが p 管理図です。同じ条件でとった小集団(群)の内部のばらつきが群内変動、群と群の差が群間変動で、どう群分けするかで異常の見え方が変わります。品質そのものを表す測定可能な性質が品質特性、顧客の要求を設計仕様へ変換していく手法が品質機能展開です。

業務分析・業務計画の手法

データを集める前段の手法も用語問題として出ます。デルファイ法は 3 回出題された定番で、専門家に匿名でアンケートを行い、集計結果を返して再度回答させることを繰り返し、意見を収束させて将来を予測します。ブレーンストーミングは自由な発想を量で集める会議法で、批判厳禁・自由奔放・質より量・便乗発展の 4 原則が要点です。発言でなくカードへの記入で回す形式がブレーンライティングです。

手法内容使いどころ
デルファイ法専門家アンケートを繰り返して意見を収束させる過去データがない事象の予測(H29 秋・H30 春・R4 秋に出題)
ブレーンストーミング批判せずアイディアを量で出す発散段階。収束は親和図法が担う
フォーカスグループ少人数の対象者を集めて司会者が議論を導く意見の深掘り
質問紙法・観察法調査票で答えを集める/作業を実地で観察する現行業務の実態把握
パレート分析寄与の大きい少数の項目に絞り込む改善対象の優先順位付け
G-P 分析成績上位群と下位群を比べて差の大きい項目を探す設問や要因の弁別力の評価
クラスタ分析法似たもの同士を距離の近さでまとめる顧客のセグメント化
決定木条件分岐を樹形に表して分類や意思決定を行うデシジョンツリーとして次節で計算する
モデル化結果が一意に決まる確定モデルと、確率で変動する確率モデルに分かれるシミュレーションの前提づくり

OR と IE ― 線形計画法・在庫管理・日程計画・検査

OR(Operations Research)は数理モデルで最適な選択を求める手法群、IE(Industrial Engineering:経営工学)は作業を測って改善する手法群です。この節からは在庫問題が 4 問、線形計画法(制約条件下の利益最大化)が 2 問、日程計画・IE・検査が各 1 問出ています。計算問題になるのは在庫と線形計画法の 2 つなので、そこを型にします。

線形計画法と制約条件下の利益最大化

線形計画法(LP:Linear Programming)は、複数の制約条件(不等式)のもとで目的関数(利益や費用の 1 次式)を最大化・最小化する手法です。変数が 2 つならグラフで解けます。制約を満たす領域(実行可能領域)を描き、その頂点の座標だけを目的関数に入れて比べれば最適解が見つかります。目的関数は 1 次式なので、最適解は必ず頂点に現れるからです。

制約 A: x + 2y ≦ 16(機械時間) 制約 B: 2x + y ≦ 14(組立時間) 利益 5x + 4y(万円)を最大化 製品 Y の生産量 (0, 8) (7, 0) 実行可能領域 最適解 (4, 6) 利益 44 万円 等利益線 製品 X の生産量
図 21-5 破線は利益が 44 万円になる点を結んだ等利益線です。これを平行に押し上げていくと最後に触れる点が最適解になり、それは必ず実行可能領域の頂点(ここでは 2 本の制約線の交点)です。

計算の型: 線形計画法のグラフ解法

制約 A: x + 2y ≦ 16、制約 B: 2x + y ≦ 14、x ≧ 0、y ≧ 0 のもとで、利益 5x + 4y(万円)を最大にする。

  1. 各制約を等式にして直線を引く。制約 A は (16, 0) と (0, 8)、制約 B は (7, 0) と (0, 14) を通る
  2. 2 直線の交点を連立で求める。x + 2y = 16 と 2x + y = 14 を解いて (4, 6)
  3. 実行可能領域の頂点をすべて列挙する: (0, 0)、(7, 0)、(4, 6)、(0, 8)
  4. 頂点を目的関数へ代入する: 0、35、44、32
  5. 最大の 44 万円(x = 4、y = 6)が答え

変数が 3 つ以上でグラフが描けない場合はシンプレックス法で解きます。資源を複数の用途に割り振る配分問題、供給地から需要地への輸送費を最小化する輸送問題も線形計画法の応用で、多段階の決定を順に最適化する手法が DP(Dynamic Programming:動的計画法)です。

計算の型: 制約条件下の利益最大化(R4 秋・R7 秋の型)

製品 X は 1 個当たり利益 900 円で機械時間 3 分、製品 Y は 1 個当たり利益 800 円で機械時間 2 分。機械は月 6,000 分まで使える。需要に上限はない。利益が最大になる生産量は。

  1. ボトルネックとなる制約を特定する(ここでは機械時間)
  2. 制約 1 単位当たりの利益を計算する: X = 900 ÷ 3 = 300 円/分、Y = 800 ÷ 2 = 400 円/分
  3. 単位当たり利益の高い製品へ優先して制約を割り当てる: Y に 6,000 分すべて → 3,000 個
  4. 利益は 3,000 × 800 = 2,400,000 円(X だけなら 2,000 個 × 900 = 1,800,000 円)

複数製品に需要上限がある場合は、単位当たり利益の高い順に上限まで割り当て、残った制約を次の製品に回します。

ここがひっかけ 「1 個当たりの利益が大きいのは X(900 円)だから X を作る」と読ませる誤答肢が必ず入ります。稀少なのは製品の個数ではなく機械時間なので、比べるのは 1 分当たりの利益です。制約が「原材料の重量」なら 1 kg 当たり、「作業者の工数」なら 1 人時当たりに直します。

在庫管理と経済的発注量(EOQ)

在庫は多く持てば保管費が増え、少なく持てば発注回数が増えて発注費が膨らみます。この 2 つの合計を最小にする 1 回の発注量が経済的発注量(EOQ:Economic Ordering Quantity)です。図 21-6 のように、総費用が最小になるのは年間発注費と年間保管費が等しくなる点で、この性質から公式を導けます。

年間費用 総費用 保管費 発注費 総費用が最小 発注費 = 保管費 EOQ 発注量 Q
図 21-6 保管費は発注量に比例して増え、発注費は発注量に反比例して減ります。総費用の谷が EOQ で、そこでは 2 本の曲線が交差します。R210 月はこの図の交点を読ませ、R7 秋は同じ性質から数値を計算させました。

計算の型: 経済的発注量 EOQ

EOQ = √(2 × R × C ÷ H) (R: 年間需要量、C: 1 回当たり発注費用、H: 1 個当たり年間保管費用)

  1. 年間需要 R = 3,600 個、1 回の発注費用 C = 500 円、1 個の年間保管費用 H = 40 円 とする
  2. 分子を計算する: 2 × 3,600 × 500 = 3,600,000
  3. H で割る: 3,600,000 ÷ 40 = 90,000
  4. 平方根をとる: √90,000 = 300 個
  5. 検算する。発注回数 = 3,600 ÷ 300 = 12 回 → 年間発注費 = 6,000 円。平均在庫 = 300 ÷ 2 = 150 個 → 年間保管費 = 6,000 円。一致するので正しい

平均在庫が発注量の半分になるのは、在庫が発注量から 0 まで一定の速さで減ると仮定するためです。

方式・用語内容向く商品
定量発注方式(発注点方式)在庫が発注点まで減ったら、あらかじめ決めた一定量(EOQ)を発注する需要が安定した安価な多数品目(H29 春に出題)
定期発注方式一定の周期で、需要予測から必要量を都度計算して発注する需要が変動する高価な重点品目
発注点調達期間中に消費する見込み量 + 安全在庫―
安全在庫需要のばらつきや納期遅れによる欠品を防ぐための上乗せ在庫―
ABC 分析金額の累積比率で品目を A・B・C に分け、A に管理の手間を集中させるパレート図が土台(R210 月に出題)
季節変動年間で繰り返す需要の増減。予測時に補正する―

計算の型: 発注点

発注点 = 1 日当たり平均使用量 × 調達期間(日)+ 安全在庫

  1. 1 日 20 個使い、発注から入荷まで 5 日、安全在庫 30 個とする
  2. 調達期間中の消費見込み: 20 × 5 = 100 個
  3. 安全在庫を足す: 100 + 30 = 130 個。在庫が 130 個になった時点で発注する

日程計画・IE・検査

日程計画では、作業の順序と所要期間を矢線で表すアローダイアグラムを用い、開始から完了までの最長経路であるクリティカルパスを求めます。この経路上の作業が 1 日遅れると全体が 1 日遅れます。手法名としては PERT(Program Evaluation and Review Technique)と CPM(Critical Path Method)が挙がり、作業の進捗を横棒で表す図がガントチャート(H28 秋に出題)です。すべての仕事が同じ順序で工程を流れる生産形態をフローショップ、仕事ごとに工程の順序が異なる形態をジョブショップといいます。アローダイアグラムの計算は第 14 章のプロジェクトマネジメントで扱います。

分野用語内容
IE 分析ワークサンプリング法時刻を無作為に選んで観測し、各作業の時間構成比を統計的に推定する(R1 秋に出題)
IE 分析PTS 法・作業時間分析法動作を要素に分解し、あらかじめ定めた標準時間値を積み上げて所要時間を求める
IE 分析サーブリック手作業を「つかむ」「運ぶ」などの基本動作記号に分解する表記法
IE 分析標準時間・余裕時間標準時間 = 正味時間 + 余裕時間。稼働分析は稼働と非稼働の割合を測る
検査抜取り検査・OC 曲線OC 曲線はロットの不良率と合格確率の関係を表す曲線(H30 春に出題)
検査消費者危険・生産者危険不良ロットを合格させる誤りが消費者危険、良品ロットを不合格にする誤りが生産者危険
検査バスタブ曲線初期故障期・偶発故障期・摩耗故障期で故障率が U 字を描く
検査モンテカルロ法・実験計画法乱数で試行を繰り返して近似解を得る手法と、要因の効果を効率よく検証する計画法

意思決定・需要予測・データ利活用

ゲーム理論・決定理論の小分類は直近 10 年で 7 問と厚く、しかもそのすべてが計算問題です。内訳はデシジョンツリー 3 問、マクシミン原理 2 問、期待値計算 1 問、ベイズ統計 1 問で、期待値の計算と利得表の読み方の 2 手順を身につければ全部に対応できます。

デシジョンツリーと期待値

デシジョンツリー(決定木)は、選択肢(決定ノード)とそれぞれの結果の確率(確率ノード)を樹形に描き、枝ごとの「確率 × 結果」を合計して期待値を比べる図です。3 回とも「施策 a と施策 b のどちらを選ぶべきか、そのときの期待値はいくらか」を問う形で、選択肢は「施策名 × 金額」の組になっています。施策の判断が合っていても金額が違えば不正解なので、必ず計算します。

施策を選ぶ 施策 a 施策 b 0.7 0.3 0.4 0.6 成功 +120 億円 失敗 −40 億円 成功 +250 億円 失敗 −20 億円 期待値 72 億円 期待値 88 億円 期待値の大きい施策 b を選ぶ
図 21-7 枝の確率は各分岐で合計 1 になります。成功時の金額だけを見ると施策 b(250 億円)が圧勝に見えますが、失敗確率が 0.6 と高いため差は 16 億円に縮まります。確率を掛け忘れると誤答肢に吸い込まれます。

計算の型: デシジョンツリーの期待値

期待値 = Σ(各結果の確率 × 各結果の金額)

  1. 施策ごとに枝を書き出し、確率の合計が 1 であることを確かめる
  2. 施策 a: 0.7 × 120 + 0.3 × (−40) = 84 − 12 = 72 億円
  3. 施策 b: 0.4 × 250 + 0.6 × (−20) = 100 − 12 = 88 億円
  4. 期待値が大きい施策 b を選ぶ。答えは「施策 b・88 億円」の組

損失は必ず負の値で足します。絶対値のまま加算すると符号を取り違えた誤答肢に一致してしまいます。

利得表と選択基準

将来の状態(自然の状態)ごとの結果を行列に並べた表を利得表(ペイオフ行列)といいます。確率がわからない場面では、どの基準で選ぶかを先に決めます。次の表は 3 銘柄の 1 株当たり値上がり幅(円)です。

銘柄景気が好転横ばい悪化最悪値最良値平均
株式 A400200−100−100400166.7
株式 B50060−200−200500120.0
株式 C1501203030150100.0

計算の型: 選択基準の使い分け

  1. マクシミン原理: 各案の最悪値を求め、その中で最大の案を選ぶ → 最悪値は −100 / −200 / 30 なので株式 C(悲観的・保守的な基準)
  2. マクシマックス原理: 各案の最良値を求め、その中で最大の案を選ぶ → 400 / 500 / 150 なので株式 B(楽観的な基準)
  3. 期待値原理・ラプラスの原理: 状態の確率で重み付けした平均が最大の案を選ぶ。確率が不明なら等確率とみなす → 166.7 / 120.0 / 100.0 なので株式 A

3 つの基準で答えが分かれるのが利得表問題の特徴で、誤答肢はまさに他の基準で選んだ案です。問題文の「最悪の場合でも最大の利益を確保したい」という言い回しがマクシミン原理の合図です。

ゲーム理論の用語も 1 行ずつ押さえます。一方の利得が他方の損失になる関係がゼロ和 2 人ゲーム、双方が得をしうる関係が非ゼロ和 2 人ゲームです。同時に手を選ぶ形式が戦略型ゲーム、手番が交互に進む形式が展開型ゲームで、1 つの手に決め打つのが純粋戦略、複数の手を確率的に混ぜるのが混合戦略です。ゼロ和 2 人ゲームで混合戦略まで許せば、マクシミンとミニマックスの値が一致するという定理がミニマックス定理です。判断基準としては、起こる可能性が最も高い未来だけを想定する最尤未来の原理、目標水準を満たす案を選ぶ要求水準原理、結果のばらつきの小ささを重視する安定性原理があり、事前確率を観測結果で更新して事後確率を求める考え方がベイジアン理論です(R6 秋にベイズ統計として出題)。

ナッシュ均衡 ― 相手の反応を織り込んだ落ち着き先

ナッシュ均衡は、相手の戦略を所与としたとき、どのプレイヤーも自分だけ戦略を変えては利得を改善できない状態です。マクシミン原理が「相手の出方を考えずに自分の最悪値を最大にする」単独の判断基準であるのに対し、ナッシュ均衡は「互いの最適反応が噛み合った状態」を指します。求め方は機械的で、相手の各手に対する自分の最適な手を選び、双方の選択が重なるマスを探すだけです。この中分類では直近 10 年に出題例がなく、シラバス Ver.7.2 の用語例として押さえる位置づけですが、利得表の読み方はマクシミン原理と共通なので追加の負担はほとんどありません。

計算の型: 利得表からナッシュ均衡を読む

2 社が同時に価格戦略を決める。表の括弧内は(A 社の利益, B 社の利益)で、単位は億円とする。

A 社の戦略B 社が高価格B 社が低価格
高価格(8, 8)(2, 10)
低価格(10, 2)(4, 4)
  1. B 社が高価格の列で A 社の利得を比べる: 8(高価格)と 10(低価格)なので低価格が有利
  2. B 社が低価格の列で A 社の利得を比べる: 2 と 4 なので低価格が有利。A 社は相手の手によらず低価格
  3. A 社が高価格の行で B 社の利得を比べる: 8 と 10 なので低価格が有利
  4. A 社が低価格の行で B 社の利得を比べる: 2 と 4 なので低価格が有利。B 社も相手の手によらず低価格
  5. 双方の最適反応が重なる(低価格, 低価格)= (4, 4) が唯一のナッシュ均衡

両社が高価格を保てば (8, 8) で双方とも得をしますが、そこから一方だけ低価格に抜け駆けすると 10 を得られるため、この組合せは維持できません。個々の合理的な選択が全体として劣る結果を招くこの構造が囚人のジレンマです。

需要予測 ― 移動平均法と指数平滑法

需要予測は R7 春に初めて出題され、移動平均法と指数平滑法の対比が問われました。どちらも過去の実績から次期を予測しますが、直近の実績をどれだけ重く見るかが違います。

計算の型: 移動平均法と指数平滑法

実績: 1 月 100、2 月 120、3 月 110、4 月 130(単位: 個)

  1. 3 か月移動平均法で 5 月を予測する: (120 + 110 + 130) ÷ 3 = 120 個。直近 3 期を等しく扱い、それより古い実績は捨てる
  2. 指数平滑法: 次期予測 = 前期予測 + α ×(前期実績 − 前期予測)
  3. 平滑化係数 α = 0.4、4 月の予測が 112 個、4 月の実績が 130 個なら、5 月予測 = 112 + 0.4 ×(130 − 112)= 112 + 7.2 = 119.2 個
  4. α を大きくするほど直近の実績を重く見る。α = 1 なら「前期実績そのまま」になる

「直近の動きを重視したいときに有効な手法はどれか」と問われたら指数平滑法です。移動平均法は期間内の実績を等しく扱うため、変化への追従が遅れます。

説明変数と目的変数の関係を式で表すのが回帰分析で、残差の 2 乗和を最小にして係数を決める方法が最小二乗法です。あてはまりの良さを 0〜1 で表す指標が決定係数、2 変数の直線的な関係の強さを −1〜1 で表す指標が相関係数です。相関があっても因果があるとは限らない点は、データ利活用の基本的な注意点です。

データ利活用

データ利活用の 4 小分類はシラバス Ver.7 系で用語例が大幅に増えましたが、直近 10 年の科目 A では 1 問も出ていません。用語の対応だけ確認して次に進みます。

段階代表的な語意味
収集1 次データ/2 次データ、構造化データ/非構造化データ自ら取得したものが 1 次、他者が集めたものが 2 次。表形式に収まるものが構造化
収集Web クローリング・スクレイピング、データレイクWeb を巡回して収集し、生の形のまま蓄える置き場がデータレイク
収集オルタナティブデータ、データのサイロ化財務情報以外の代替データ/部門ごとに孤立して活用できない状態
加工名寄せ、外れ値・欠損値の処理、標準化、対数変換、アノテーション分析前の前処理。同一実体の重複をまとめるのが名寄せ
分析BI、データマイニング、テキストマイニング、アソシエーション分析、リフト値BI は業務データを集約して意思決定に使う仕組み。併売の強さを測る指標がリフト値
分析ビッグデータ、オープンデータ、パーソナルデータ、CDP量・多様性・速度で従来手法が及ばない規模のデータ。誰でも二次利用できるのがオープンデータ
統計母集団と標本、層別抽出、多段抽出、選択バイアス、交絡バイアス抽出の偏りが結論をゆがめる。ハロー効果・確証バイアスは認知バイアス
可視化箱ひげ図、ヒートマップ、レーダーチャート、散布図行列、デンドログラム起点が 0 でないグラフや不要な立体表現は誤読を招く不適切な表現

損益分岐点分析と原価計算

この章で最も重要な節です。損益分岐点は直近 10 年 19 回で 15 問出ており、この中分類の 5 問に 1 問を占めます。しかも 15 問中 14 問が計算問題で、問 77 の定席になっています。出題の型は 3 つしかありません。(a) 損益資料から損益分岐点売上高を求める、(b) 目標利益や条件変化を織り込んだ売上高・販売数量を求める、(c) 2 社の損益資料を比べて限界利益率や安全余裕率を読む、の 3 型です。順に型を作ります。

費用を 2 つに分ける

出発点は費用の分解です。売上高に比例して増える費用が変動費(材料費・仕入原価・出来高払いの外注費)、売上高に関係なく一定額かかる費用が固定費(賃借料・正社員の人件費・減価償却費)です。売上高に対する変動費の割合が変動費率、売上高から変動費を引いた残りが限界利益で、これが固定費の回収と利益に充てられます。

金額 売上高線 総費用線 固定費 250 損失 利益 損益分岐点売上高 500 安全余裕 500 売上高
図 21-8 総費用線の切片が固定費、傾きが変動費率です。売上高線との交点が損益分岐点で、実際の売上高 1,000 との差 500 が安全余裕、その割合 50% が安全余裕率です。

計算の型 (a): 損益分岐点売上高

限界利益 = 売上高 − 変動費 / 限界利益率 = 1 − 変動費率 / 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率

資料: 売上高 1,000 万円、変動費 500 万円、固定費 250 万円

  1. 変動費率を出す: 500 ÷ 1,000 = 0.5
  2. 限界利益率を出す: 1 − 0.5 = 0.5
  3. 固定費を限界利益率で割る: 250 ÷ 0.5 = 500 万円
  4. 検算: 売上 500 のとき変動費 250、限界利益 250 で固定費 250 と等しく、利益は 0 になる

安全余裕率 =(売上高 − 損益分岐点売上高)÷ 売上高 = (1,000 − 500) ÷ 1,000 = 50%。損益分岐点比率(= 500 ÷ 1,000 = 50%)とは足して 100% になる関係です。

計算の型 (b): 目標利益を達成する売上高

目標利益売上高 =(固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率

資料: 固定費 300 万円、変動費率 0.6、目標利益 120 万円

  1. 限界利益率を出す: 1 − 0.6 = 0.4
  2. 固定費に目標利益を足す: 300 + 120 = 420 万円
  3. 限界利益率で割る: 420 ÷ 0.4 = 1,050 万円
  4. 販売数量を問われたら、この売上高を販売単価で割る

「目標利益を固定費に加える」のがこの型の勘所です。加えずに 300 ÷ 0.4 = 750 万円と答えさせる肢が必ず並びます。

計算の型: 2 点の実績から変動費率を逆算する

資料: 売上高 800 万円のとき利益 30 万円、売上高 1,200 万円のとき利益 150 万円。固定費・変動費率は一定とする。

  1. 差をとる。売上が 400 万円増えて利益が 120 万円増えた
  2. 増えた分はすべて限界利益なので、限界利益率 = 120 ÷ 400 = 0.3(変動費率 0.7)
  3. 固定費を求める: 800 × 0.3 − 30 = 240 − 30 = 210 万円
  4. 損益分岐点売上高 = 210 ÷ 0.3 = 700 万円

固定費も変動費率も与えられていないときは、必ずこの差分の考え方を使います。

2 社比較 ― 固定費が大きい会社は何に強く、何に弱いか

(c) の型は 2 社の損益資料を並べ、費用構造の違いから経営の性質を読ませます。売上も利益も同じ 2 社でも、限界利益率と固定費の大きさが違えば売上変動への反応がまったく変わります。

項目A 社B 社読み方
売上高1,0001,000同じ
変動費700400B 社は変動費率が低い
限界利益(率)300(30%)600(60%)売上 1 単位増の効き目は B 社が 2 倍
固定費200500B 社は固定費が重い
営業利益100100現状は同じ
損益分岐点売上高約 667約 833200 ÷ 0.3 と 500 ÷ 0.6
安全余裕率約 33%約 17%A 社の方が余裕がある
売上 20% 増(1,200)利益 160利益 220B 社の伸びが大きい
売上 20% 減(800)利益 40利益 −20B 社は赤字に転落

固定費が重く限界利益率が高い会社は、売上が増えると利益が急に伸び、減ると急に悪化します。装置産業やソフトウェア企業がこの型です。逆に変動費中心の会社は、利益の伸びは鈍いものの売上減に耐えます。

ここがひっかけ 「損益分岐点売上高が低い会社ほど売上増で利益が伸びる」という肢は誤りです。損益分岐点が低いのは売上減に強いことを意味し、売上増で利益が伸びるかどうかは限界利益率が決めます。もう 1 つの定番は、限界利益率と変動費率の取り違えです。割るのは(1 − 変動費率)であって変動費率ではありません。
覚え方 損益分岐点の 3 公式は分子だけが変わります。分母はいつも限界利益率で、分子が「固定費」なら損益分岐点、「固定費 + 目標利益」なら目標利益売上高です。単位が数量で問われたら、最後に単価で割ります。

原価計算

製造原価は材料費・労務費・経費の 3 要素に分け、それぞれを特定の製品に直接ひも付けられる直接費と、複数製品に共通してかかる間接費に分けます。間接費は何らかの基準で各製品へ配賦します。R5 春には原価計算基準における経費の範囲が問われました。

方式内容目的
個別原価計算受注ごと・製造指図書ごとに原価を集計する受注生産・建設業など
総合原価計算期間の総製造費用を完成品数量で割る同種製品の連続生産
標準原価計算あらかじめ標準原価を定め、実際原価との差異を分析して原因を追う原価管理・能率の評価(H31 春に出題)
直接原価計算変動費だけを製品原価とし、固定費は期間費用として扱う損益分岐点分析・短期の意思決定
ABC(活動基準原価計算)間接費をいったん「活動」ごとに集計し、活動の利用量に応じて製品へ配賦する間接費の比率が高い事業の実態把握(R7 春に出題)
原価企画企画・設計の段階で目標原価を決め、それに収まるよう作り込む製品ライフサイクル全体での原価低減

需要があったのに供給できず得られなかった利益を機会損失といい、在庫不足や生産能力不足の影響を金額で表すときに使います(H28 秋に出題)。変動費と固定費を分けて限界利益を明示した損益計算書が変動損益計算書、その関係をグラフにしたものが利益図表・限界利益図表です。

財務諸表・財務分析・資産管理・経済性計算

会計・財務のうち損益分岐点以外の 9 問は、財務諸表分析の比率(R7 春・R7 秋で 2 回連続)、原価計算(3 問)、固定資産除却損(2 問)、営業キャッシュフロー・IFRS(各 1 問)に散っています。とくに比率計算は 10 年で初めて出た小分類がいきなり 2 回続いたので、主要指標は必ず押さえます。

財務諸表の構造

貸借対照表(B/S)は、ある時点で「どこから資金を調達し(右)、何に使っているか(左)」を示します。左右は必ず一致します。損益計算書(P/L)は一期間の儲けを 5 段階に分けて示し、どの段階で利益が生まれ、どこで失われたかを読み取ります。

貸借対照表(B/S) 流動資産 400 固定資産 600 流動負債 300 固定負債 300 純資産 400 資産 1,000 = 負債 600 + 純資産 400 損益計算書(P/L)の 5 段階利益 売上高 1,000 売上総利益 400 営業利益 150 経常利益 130 税引前利益 120 当期純利益 80 − 売上原価 600 − 販管費 250 − 営業外費用 20 − 特別損失 10 − 法人税等 40 売上高から 5 段階の利益へ
図 21-9 営業利益までが本業の成果、経常利益は財務活動を含めた通常の成果、特別損益を加えた後が税引前利益です。本業で稼げているかを見るのは営業利益で、当期純利益だけを見ると特別損益に振り回されます。
区分中身押さえる点
流動資産現金預金・売掛金・棚卸資産1 年以内に現金化する見込みのもの
固定資産有形固定資産(建物・機械)、無形固定資産(ソフトウェア・のれん・特許権)、投資その他長期に使用・保有するもの
繰延資産創立費・開発費など、支出の効果が将来に及ぶもの資産の側に置く費用
流動負債・固定負債買掛金・短期借入金/社債・長期借入金返済期限が 1 年以内かどうかで分ける
純資産(株主資本)資本金・資本剰余金・利益剰余金返済義務のない自己資本。自己資本比率の分子
キャッシュフロー計算書営業活動・投資活動・財務活動の 3 区分営業 CF は本業で稼いだ現金(R3 春に出題)。営業 CF + 投資 CF がフリーキャッシュフロー
株主資本等変動計算書純資産の期中の増減内訳配当・増資・当期純利益の反映を示す

決算では試算表・精算表を経て諸表を作り、中間決算・四半期決算で期中の状況も開示します。子会社を含む企業グループを 1 つの組織とみなして作る決算が連結会計で、支配しているかどうかを実質で判定する基準が支配力基準、買収額が被買収企業の純資産を超えた差額がのれんです。開示書類には有価証券報告書・決算公告・決算短信があり、その適正性を確かめる手続が会計監査です。国際的な比較可能性を高めるための会計基準が IFRS(国際財務報告基準)で、R1 秋に出題されました。収益・費用を現金の動きではなく発生した事実で計上する原則が発生主義、不確実性があるときは慎重に見積もる原則が保守主義です。

法令で定められた開示のための会計が財務会計、経営判断のために社内で使う会計が管理会計です。個別領域の基準としては、税務と会計の一時差異を調整する税効果会計、ソフトウェアの資産計上区分を定めるソフトウェア会計、収益性が落ちた資産の帳簿価額を切り下げる減損会計、時価で評価する時価会計、退職給付債務を計上する退職給付会計、リース取引の処理を定めるリース会計があり、これらの土台が企業会計原則です。

財務諸表の分析

比率分析は収益性・安全性・効率性の 3 系統に整理します。R7 春は総資産営業利益率を売上高営業利益率と総資産回転率に分解する問題、R7 秋は貸借対照表から自己資本比率を求める問題でした。図 21-10 で図 21-9 の数値を使って計算します。

総資産営業利益率 15% = 売上高営業利益率 150 ÷ 1,000 = 15% × 総資産回転率 1,000 ÷ 1,000 = 1.0 回 前図の貸借対照表と損益計算書の数値で計算する ROE(自己資本利益率) 当期純利益 80 ÷ 自己資本 400 20% ROA(総資産利益率) 当期純利益 80 ÷ 総資産 1,000 8% 自己資本比率 自己資本 400 ÷ 総資産 1,000 40% 総資産回転率 売上高 1,000 ÷ 総資産 1,000 1.0 回 ROE は自己資本で、ROA は総資産で割る
図 21-10 上段の分解式は、同じ総資産営業利益率 15% でも「利益率が高くて回転が遅い企業」と「利益率が低くて回転が速い企業」に分かれることを示します。改善の打ち手も前者は回転率、後者は利益率と変わります。

計算の型: 主要な財務指標

株式指標は、EPS(1 株当たり当期純利益)= 当期純利益 ÷ 発行済株式数、PER(株価収益率)= 株価 ÷ EPS、PBR(株価純資産倍率)= 株価 ÷ 1 株当たり純資産です。分析の枠組みとしては、複数期を並べる趨勢法、構成比を見る構成比率、項目間の比を見る関係比率があり、ある時点の財政状態を見るのが静態分析、期間の変化を見るのが動態分析です。企業内部から行うのが内部分析、外部の投資家などが行うのが外部分析です。付加価値を従業員数で割った労働生産性、資本で割った資本生産性、付加価値に対する人件費の割合である労働分配率、資本コストを上回った利益額を表す EVA(経済的付加価値)も用語例に並びます。

ここがひっかけ 自己資本比率の分母は総資産(= 負債 + 純資産)です。「自己資本 ÷ 負債」で計算させる肢が誤答として並びます。ROE と ROA も分母の取り違えが狙われます。E は Equity(自己資本)、A は Assets(総資産)と英語で覚えれば取り違えません。

資産管理 ― 棚卸資産評価と減価償却

棚卸資産の評価方法は、同じ仕入実績でも期末在庫と売上原価が変わります。次の資料で 3 方法を比べます。期首在庫 100 個 @200 円、4 月に 200 個 @230 円を仕入れて 200 個販売、6 月に 100 個 @260 円を仕入れて 100 個販売。仕入総額は 92,000 円、期末在庫は 100 個です。

計算の型: 棚卸資産の評価

  1. 先入先出法: 古いものから払い出すので、期末に残るのは最後に仕入れた分。100 個 × 260 円 = 26,000 円
  2. 総平均法: 期間全体の平均単価で評価する。92,000 ÷ 400 個 = 230 円 → 100 個 × 230 = 23,000 円
  3. 移動平均法: 仕入のたびに平均単価を更新する。4 月仕入後は (20,000 + 46,000) ÷ 300 = 220 円。200 個払い出して残 100 個(22,000 円)に 6 月仕入 26,000 円を加えると (22,000 + 26,000) ÷ 200 = 240 円 → 100 個 × 240 = 24,000 円

売上原価は「期首在庫 + 当期仕入 − 期末在庫」で求めます。期末在庫の評価額が大きいほど売上原価が小さく、利益は大きく出ます。物価が上がる局面では先入先出法の利益が最も大きくなります。

計算の型: 減価償却と固定資産除却損

取得原価 40 万円、耐用年数 5 年、残存価額 0、定率法の償却率 0.4 とする。

  1. 定額法: 毎年 40 ÷ 5 = 8 万円。帳簿価額は 32 → 24 → 16 → 8 → 0 万円と直線で下がる
  2. 定率法: 期首帳簿価額 × 償却率。1 年目 40 × 0.4 = 16 万円(残 24)、2 年目 24 × 0.4 = 9.6 万円(残 14.4)、3 年目 14.4 × 0.4 = 5.76 万円(残 8.64)。初期の償却額が大きい
  3. 除却損= 除却時の帳簿価額 + 廃棄費用。定額法で 3 年使用後(帳簿価額 16 万円)に廃棄費用 2 万円をかけて処分すると、除却損は 16 + 2 = 18 万円

廃棄費用は足すのが正しく、引く肢・無視する肢が誤答になります。残存価額が指定されていれば、定額法の毎年の償却額は (取得原価 − 残存価額) ÷ 耐用年数 です。

リースは 2 種類を区別します。物件の使用期間がほぼ全期間に及び、中途解約できず借手が実質的に所有と同様の負担を負うのがファイナンスリースで、原則として資産・負債として計上します。それ以外がオペレーティングリースで、資産を貸借対照表に載せずに済ませることをオフバランスといいます。

資金計画と経済性計算

資金調達は、返済義務のない自己資本による調達(新株発行=増資、株式公開)と、返済義務のある他人資本による調達(銀行借入、社債発行)に分かれます。取引先との支払猶予を利用する企業間信用、内部留保や減価償却費で手元に残る資金を使う自己金融、不特定多数から少額ずつ集めるクラウドファンディングも手段です。グループ内の債権債務を相殺して決済額を圧縮する手法がネッティング、資金の過不足を先読みする表が資金繰り表、グループ全体で資金を集中管理する仕組みがキャッシュマネジメントです。

計算の型: 投資評価(NPV と回収期間法)

初期投資 1,000 万円、毎年のキャッシュフロー 450 万円が 3 年間、割引率 10%(現価係数は 1 年 0.909、2 年 0.826、3 年 0.751)。

  1. 回収期間法: 1,000 ÷ 450 = 約 2.2 年。単純で分かりやすいが、時間価値と回収後のキャッシュフローを無視する
  2. NPV(正味現在価値)法: 各年のキャッシュフローを現在価値に割り引いて合計し、初期投資を引く
  3. 450 × (0.909 + 0.826 + 0.751) = 450 × 2.486 = 1,118.7 万円
  4. NPV = 1,118.7 − 1,000 = +118.7 万円。NPV が正なら投資する価値がある
  5. IRR(内部利益率)法は NPV がちょうど 0 になる割引率を求め、資本コストと比べる

割引後のキャッシュフローで回収期間を測るのが DPP(割引回収期間)法、将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて価値を測る考え方全体が DCF 法です。割引率には、負債と自己資本の資本コストを構成比で加重平均した WACC(加重平均資本コスト)を使います。事業価値評価・採算比較もこの小分類の用語例です。

2026 年度の注意 経済性計算(NPV・IRR・DCF・WACC)は直近 10 年の科目 A では 1 問も出ていません。一方でシラバス Ver.7.2 には用語例として明記されています。公式の定義と「NPV が正なら採用」「IRR は資本コストと比較」という判断基準だけを押さえ、深追いはしない配分が妥当です。

税務では、所得に対して課される法人税と、消費に対して課され事業者が預かって納付する消費税を区別します。適格請求書(インボイス)を保存することで仕入税額控除を受けられる仕組みがインボイス制度、国税関係帳簿書類を電子データで保存する要件を定めた法律が電子帳簿保存法です。

ひっかけポイント

ここがひっかけ 1 限界利益率と変動費率の取り違え。損益分岐点売上高は固定費を「1 − 変動費率」で割ります。変動費率 0.6 の会社なら 0.4 で割るのに、0.6 で割った値が必ず選択肢に並びます。割った答えが「現在の売上高より大きくないか」「利益が出ている会社なのに損益分岐点が売上を超えていないか」で検算すると気付けます。
ここがひっかけ 2 目標利益の加算忘れ。「目標利益 90 万円を確保するのに必要な売上高」を問われたら、分子は固定費だけでなく「固定費 + 目標利益」です。設問が「営業利益」「経常利益」のどちらを指すか、変動費率が「原価率」と書き換えられていないかも読み分けます。
ここがひっかけ 3 制約条件下の利益最大化で「1 個当たり利益」を比べる。稀少なのは製品の個数ではなく機械時間や工数です。比べるのは 1 個当たり利益ではなく制約 1 単位当たりの利益で、単価の高い製品が選ばれるとは限りません。同じ発想は在庫の ABC 分析や投資案の ROI 比較にも効きます。
ここがひっかけ 4 リーダーシップ 3 理論の軸の入れ替え。SL 理論の説明として「目標達成能力と集団維持能力の 2 次元」(PM 理論)や「リーダーの統制力という状況要因」(フィードラー)が並びます。設問に人名が示されていれば人名で、示されていなければ「成熟度」「2 次元」「状況」というキーワードで切り分けます。
ここがひっかけ 5 新 QC 七つ道具の役割の入れ替えと、除却損の符号。親和図法はグループ化、連関図法は因果の整理、系統図法は目的から手段への展開です。除却損は「帳簿価額 + 廃棄費用」で、廃棄費用を引く肢・無視する肢・減価償却累計額を答えさせる肢が誤答になります。

理解度チェック(科目 A 形式)

Q1. ある企業の当期実績は、売上高 800 万円、変動費 480 万円、固定費 240 万円であった。損益分岐点売上高は何万円か。
  1. 400
  2. 600
  3. 720
  4. 800

正解: イ 変動費率 = 480 ÷ 800 = 0.6、限界利益率 = 1 − 0.6 = 0.4 なので、240 ÷ 0.4 = 600 万円です。ア は固定費を変動費率 0.6 で割った誤り、ウ は固定費と変動費を単純に足した値、エ は現在の売上高そのものです。

Q2. 固定費 400 万円、変動費率 0.6 の事業で、営業利益 80 万円を確保するために必要な売上高は何万円か。
  1. 800
  2. 960
  3. 1,000
  4. 1,200

正解: エ 限界利益率は 1 − 0.6 = 0.4 で、分子は固定費に目標利益を加えた 400 + 80 = 480 万円です。480 ÷ 0.4 = 1,200 万円になります。ア は 480 を変動費率 0.6 で割った誤り、イ は限界利益率を 0.5 とした誤り、ウ は目標利益を加算し忘れた損益分岐点売上高です。

Q3. X 社と Y 社はともに売上高 500 万円、営業利益 50 万円である。変動費は X 社が 350 万円、Y 社が 200 万円で、それ以外の費用はすべて固定費である。両社の売上高がともに 20% 増加したときの営業利益について、適切な記述はどれか。
  1. Y 社の増加額の方が大きい。限界利益率が高いからである
  2. Y 社の増加額の方が大きい。損益分岐点売上高が低いからである
  3. X 社の増加額の方が大きい。変動費率が高いからである
  4. 両社の増加額は等しい。増加前の営業利益が同じだからである

正解: ア 限界利益率は X 社 0.3、Y 社 0.6 です。売上高 600 万円では X 社の営業利益が 180 − 100 = 80 万円(+30)、Y 社が 360 − 250 = 110 万円(+60)となり、Y 社の伸びが大きくなります。イ は結論は正しいものの理由が誤りで、損益分岐点売上高は X 社 約 333 万円、Y 社 約 417 万円と Y 社の方が高い値です。ウ は変動費率が高いほど売上増が利益に結び付きにくいので誤り、エ は増加額を決めるのが限界利益率である点を見落としています。

Q4. ハーシィ及びブランチャードが提唱した SL 理論の説明として、適切なものはどれか。
  1. リーダーシップの有効性は、リーダーのパーソナリティと集団に対する統制力という状況要因に依存する
  2. リーダーシップを、目標達成機能と集団維持機能の 2 次元の強弱によって 4 類型に分ける
  3. 特定の 1 人ではなく、場面に応じてメンバーが相互にリーダーシップを発揮する
  4. 部下の成熟度に応じて、指示的な関わりから委任的な関わりへとスタイルを変えるべきである

正解: エ SL 理論は部下の成熟度(自律性)という状況要因でスタイルを 4 段階に切り替えます。ア はフィードラーのコンティンジェンシー理論、イ は PM 理論、ウ はシェアードリーダーシップの説明です。

Q5. 過去の実績データが乏しい事象について、複数の専門家に同一のアンケートを繰り返し行い、前回の回答分布を示しながら意見を収束させて予測する手法はどれか。
  1. クラスタ分析法
  2. デルファイ法
  3. ブレーンストーミング
  4. 回帰分析

正解: イ 匿名のアンケートを反復して収束させるのがデルファイ法の特徴です。ア は距離の近いデータを群にまとめる分析手法、ウ は批判せずアイディアを量で出す発想法で収束を目的としません、エ は説明変数と目的変数の関係を式で表す統計手法で、実績データが必要です。

Q6. 新事業の案 P は成功確率 0.6 で利益 200 億円、失敗確率 0.4 で 50 億円の損失となる。案 Q は成功確率 0.3 で利益 400 億円、失敗確率 0.7 で 20 億円の損失となる。期待値が大きい案と、その期待値の組合せはどれか。
  1. 案 Q、106 億円
  2. 案 Q、120 億円
  3. 案 P、100 億円
  4. 案 P、140 億円

正解: ア 案 P は 0.6 × 200 + 0.4 × (−50) = 100 億円、案 Q は 0.3 × 400 + 0.7 × (−20) = 120 − 14 = 106 億円で、案 Q が上回ります。イ は損失を無視して成功側だけを計算した値、ウ は案の判断を誤ったもの、エ は損失を絶対値のまま加算した誤りです。

Q7. 年間需要量 5,000 個、1 回当たりの発注費用 400 円、1 個当たりの年間保管費用 25 円のとき、経済的発注量 (EOQ) は何個か。
  1. 25
  2. 283
  3. 400
  4. 566

正解: ウ EOQ = √(2 × 5,000 × 400 ÷ 25) = √160,000 = 400 個です。ア は発注費用と保管費用を入れ替えた誤り、イ は分子の 2 を掛け忘れた √80,000、エ は 2 を二重に掛けた √320,000 に相当します。検算すると発注回数 12.5 回で年間発注費 5,000 円、平均在庫 200 個で年間保管費 5,000 円と一致します。

Q8. PM 理論において、目標達成への働きかけは強いが、集団をまとめる働きかけが弱いリーダーの類型はどれか。
  1. PM 型
  2. Pm 型
  3. pM 型
  4. pm 型

正解: イ 大文字が機能の強さを表します。目標達成機能 P が強く集団維持機能 M が弱いのは Pm 型で、成果を急ぐあまり部下の抵抗を受けやすい類型です。ア は両方強い理想型、ウ は集団維持だけが強い型、エ は両方弱い型です。

Q9. 製品の故障について原因別の発生件数を多い順に棒グラフで並べ、その累積比率を折れ線で重ねることで、対策すべき主要な原因を絞り込むために用いる図はどれか。
  1. 管理図
  2. 散布図
  3. ヒストグラム
  4. パレート図

正解: エ 棒グラフと累積比率の折れ線を組み合わせ、上位少数の要因が全体の大半を占めることを示すのがパレート図です。ア は時系列の値が管理限界内にあるかを監視する図、イ は 2 項目の相関を見る図、ウ は測定値を階級に区切って度数の分布を見る図です。

Q10. 3 つの投資案について、将来の状況ごとの利益(万円)は、案 1 が好況 60・横ばい 50・不況 20、案 2 が好況 150・横ばい 40・不況 −70、案 3 が好況 100・横ばい 60・不況 −10 である。状況の発生確率が不明なとき、マクシミン原理によって選ぶ案はどれか。
  1. 案 1
  2. 案 2
  3. 案 3
  4. どの案を選んでも同じ

正解: ア 各案の最悪値は 20、−70、−10 で、その中で最大なのは案 1 の 20 万円です。イ は最良値が最大の案を選ぶマクシマックス原理の答え、ウ は 3 状況を等確率とみなした期待値(案 1 が 43.3、案 2 が 40.0、案 3 が 50.0)が最大の案で、いずれも別の選択基準による結果です。エ は最悪値が案ごとに異なるので誤りです。

Q11. 収集した多数の事実や意見を、互いの親和性に着目してグループにまとめ、グループごとに見出しを付けて全体の構造を明らかにする手法はどれか。
  1. 系統図法
  2. 連関図法
  3. 親和図法
  4. マトリックス図法

正解: ウ 言語データを類似性でまとめて構造化するのが親和図法で、KJ 法を源流とします。ア は目的から手段へ樹形に展開する手法、イ は絡み合った原因と結果を矢印でつなぐ手法、エ は 2 つの要素を行と列に配置して交点で対応関係を見る手法です。

Q12. 取得原価 60 万円、耐用年数 6 年、残存価額 0 の設備を定額法で償却してきた。4 年経過した時点でこの設備を廃棄し、廃棄費用 3 万円を支払った。計上する固定資産除却損は何万円か。
  1. 17
  2. 20
  3. 23
  4. 43

正解: ウ 年間償却額は 60 ÷ 6 = 10 万円なので 4 年で 40 万円を償却し、帳簿価額は 20 万円です。除却損は帳簿価額 + 廃棄費用 = 20 + 3 = 23 万円になります。ア は廃棄費用を差し引いた誤り、イ は廃棄費用を無視した値、エ は減価償却累計額 40 万円に廃棄費用を足した誤りです。

Q13. ある企業の貸借対照表は、流動資産 350、固定資産 450、流動負債 200、固定負債 280、純資産 320(単位: 百万円)である。純資産はすべて自己資本とするとき、自己資本比率は何 % か。
  1. 40
  2. 60
  3. 66.7
  4. 175

正解: ア 総資産は 350 + 450 = 800(負債 480 + 純資産 320 と一致)なので、320 ÷ 800 = 40% です。イ は負債が総資産に占める割合、ウ は自己資本を負債で割った誤り、エ は流動資産 ÷ 流動負債で求めた流動比率です。

Q14. 製品 A は 1 個当たりの利益が 1,200 円で機械時間 4 分、製品 B は 1 個当たりの利益が 700 円で機械時間 2 分を要する。機械の使用可能時間は月 8,000 分で、いずれの製品も需要に上限はない。月間の利益が最大になるときの利益は何円か。
  1. 2,400,000
  2. 2,600,000
  3. 2,800,000
  4. 5,200,000

正解: ウ 機械時間 1 分当たりの利益は A が 1,200 ÷ 4 = 300 円、B が 700 ÷ 2 = 350 円なので、B だけを 8,000 ÷ 2 = 4,000 個作るのが最適で、利益は 4,000 × 700 = 2,800,000 円です。ア は 1 個当たり利益の大きい A だけを 2,000 個作った場合、イ は機械時間を半分ずつ配分した場合、エ は制約時間を両製品に二重に使った値です。

まとめ

論点公式・要点取り違えの相手
損益分岐点売上高固定費 ÷(1 − 変動費率)変動費率で割る誤り
目標利益売上高(固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率目標利益の加算忘れ
安全余裕率(売上高 − 損益分岐点売上高)÷ 売上高損益分岐点比率(足して 100%)
線形計画法実行可能領域の頂点をすべて目的関数に代入して比べる変数 3 つ以上はシンプレックス法
制約下の利益最大化制約 1 単位当たりの利益が高い製品へ優先配分1 個当たり利益で選ぶ誤り
EOQ√(2 × 年間需要 × 発注費用 ÷ 単位保管費用)分母分子の入れ替え、2 の掛け忘れ
発注点1 日平均使用量 × 調達期間 + 安全在庫安全在庫の足し忘れ
期待値Σ(確率 × 金額)。損失は負で加算成功時の金額だけの比較
マクシミン原理各案の最悪値のうち最大の案マクシマックス(最良値の最大)、期待値原理
ナッシュ均衡双方の最適反応が重なるマス。単独で戦略を変えても改善しない利益合計が最大の組合せ(維持できるとは限らない)
指数平滑法前期予測 + α ×(前期実績 − 前期予測)移動平均法(期間内を等しく扱う)
ROE / ROA当期純利益 ÷ 自己資本 / 利益 ÷ 総資産分母の取り違え
自己資本比率自己資本 ÷ 総資産(= 負債 + 純資産)負債で割る誤り
ROA の分解売上高利益率 × 総資産回転率―
固定資産除却損帳簿価額 + 廃棄費用廃棄費用を引く・無視する
NPV 法割引後キャッシュフローの合計 − 初期投資。正なら採用回収期間法(時間価値を無視)
リーダーシップ 3 理論PM は機能、SL は成熟度、フィードラーは状況軸の入れ替え
新 QC 七つ道具親和図=グループ化、連関図=因果、系統図=手段展開役割の入れ替え

次章の第 22 章では、企業活動を法的に縛る側の知識として、知的財産権・セキュリティ関連法・労働関連法・標準化を扱います。本章のコーポレートガバナンスやコンプライアンスは、次章の内部統制・法令とひと続きの論点です。